遺言でできること

Top / 遺言でできること


遺言でできること



遺言は法律で定められている事項に限ってすることができます。(遺言事項)遺言制度は人の生前の最終の意思を尊重してその効力を認めるもので、民法その他の法律は人が最終意思でこうしたいと思う事項についてその必要性、生存している利害関係人、その他社会全般の利益を考慮して、一定のものに限定しています。遺言事項には、以下のようなものがあります。

1.相続に関する事項 相続人の廃除、相続分の指定等
2.相続以外の相続財産の処分に関する事項 遺贈等
3.身分上の事項 認知等
4.遺言の執行に関する事項 遺言執行者の指定等

また、遺言事項には、「遺言でのみすることができる事項」と、「生前行為(生きているうち)でもすることができる事項」とがあります。ここで挙げられている遺言事項以外のことは書いてはいけないということではありません。自筆証書遺言を書く際に、相続人や、お世話になった方へ最後のメッセージを遺言書に記述することは、法的な意味はあまりないですが可能です。ただし、法定の遺言事項を分かりにくくするような記述や、不明瞭な記述で肝心の法定の遺言事項に疑義が生じるようなことは避けるべきでしょう。そのような場合は、遺言書のほかに「エンディング・ノート」を作成しましょう。

遺言によってのみすることができる事項

未成年後見人・未成年後見監督人の指定

未成年後見人とは、未成年者に対して親権を行う者がないとき、または、親権を行う者が財産管理権を有しないときに、法定代理人となる者のことです。未成年後見監督人とは、未成年後見の場合に置くことができる、後見人を監督する者のことです。親一人子一人で、親権者である親が亡くなれば、親権を行使する者がいなくなるわけですが、親権者である人は自分の死後、未成年の子に対して後見する人を遺言で指定することができます。未成年の子を持つ人が、死後はこの人にわが子を見てほしいというような場合にする遺言事項です。

相続分の指定とその委託

わが国の民法は、相続人の種別や順位に応じて法定相続分という一定の割合を設けています。遺言者は、遺言で共同相続人の相続分を自分で指定するか、 相続分の指定することを第三者に委託することができます。相続分の指定の方法は、「妻4分の3、長男4分の1」というように割合で遺言書に書く方法によります。この相続分の指定は一部の共同相続人に対してのみ行うこともできます。
夫Aとその妻B、子がC、D、Eの3人いる場合を例にすると、「長男C2分の1」と夫Aが遺言で指定して亡くなったとすれば、長男Cは遺言のとおり2分の1の割合を相続し、相続分の指定の無かった妻Bとその他2人の子は、残りの2分の1を法定相続分で比例分割して、妻は4分の1、D、Eはそれぞれ8分の1の割合を相続することになります。
相続分の指定の委託とは、第三者に上記の相続分の指定を頼むことをいいます。委託する者の氏名、生年月日、本籍地、住所等で特定して、相続分の指定を委託する旨を遺言書に書きます。この委託を受けた人は、「相続分を指定してください。」と頼まれるわけですが、拒否することも可能です。その場合には遺言の効力は無くなり、原則に戻って法定相続分で相続することになります。相続分の指定や指定の委託は遺言によってしなければならず、 生前行為によってすることは認められません。

どうしても相続分で指定しなければならない特別な理由でもない限り、結局相続財産は指定された相続分で共有になることもあり、お勧めできる遺言方法ではないと思います。

遺産分割の方法の指定とその委託

遺産分割の方法の指定とは、「Aには不動産を、Bには預貯金及び現金を相続させる」 というように、 各相続人の取得すべき遺産を具体的に定める遺言をいいます。
上記の例ように財産をそのまま相続人に配分する方式の他に、 「Aには全ての財産を相続させる代わりに、AはBに対して金1000万円を支払う」というように相続人の一部にその相続分を超える財産を取得させ、 他の相続人に対し債務を負担させる方式の代償分割という方式や、 「不動産を売却して、その売却金はA、B各2分の1を取得する」といった遺産を処分してその価額を分配する方式の換価分割という方法も指定可能です。遺産分割の方法の指定も、上述の相続分の指定と同様、遺言で第三者への委託が可能で、遺言によってのみすることができ、生前行為によってすることは認められません。

不動産など不可分な財産を所有する遺言者が遺言書を作成する場合は、上述の「相続分の指定」ではなく、こちらの「遺産分割の方法の指定」により、相続財産の共有状態を生じさせないような遺言を作成することをお勧めします。

遺産分割の禁止

遺産分割は相続開始後いつでも行うことができると規定され、時期的な制限はありません。しかし、遺言者が、相続人が若く、判断力が未熟なので、相続した途端、だまされてすぐに財産を処分してしまうのではないか?と考えた場合や、相続開始後すぐに分割を認めると、相続人間の争いがおこると予想される場合などには、一定期間遺産分割を禁止することができます。
遺言者は、 遺言で遺産分割の禁止をするときは、5年以内の期間を定めて、 遺産の全部または一部についてその分割を禁止することができます。遺産分割の禁止は、遺言によって行わなければならず、 それ以外の生前行為で指定することは認められません。また、遺言によって、遺産分割が禁止されていない場合でも、相続開始後に「特別の事由」がある場合に、家庭裁判所が、遺産の全部または一部について、期間を定めて分割を禁じることができ、相続人全員の合意がある場合にも、遺産分割を禁止することがあります。

遺産分割における共同相続人の担保責任の指定

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保責任を負うと民法に規定されています。共同相続人の担保責任とは、遺産分割で財産を取得したものの、その財産が他人物であったり、数量が不足していたり、他人の権利が付いていたり、隠れた瑕疵(キズ)があったりしたような場合に、その相続財産を取得した相続人を保護するため、他の相続人に対して、損害賠償請求や解除を求めることができるというものです。遺言者は、遺言によってこの相続人の担保責任を指定する(相続人の担保責任を免除、減免する)ことができます。担保責任の指定は遺言によって行わなければならず、 それ以外の生前行為で行うことは認められません。

遺言執行者の指定とその委託

遺言事項には、遺言者の死亡のみによって効力が生じ、その他の行為を要しないものと、遺言者の死亡のみだけでなく、何らかの行為が必要となるものがあります。遺言者の死亡以外に何らかの行為を行うことを「遺言執行」といい、例としては、認知の届出、家庭裁判所に対する推定相続人の廃除、廃除の取消請求、財産の移転・名義変更などがあります。
遺言執行を行う者のことを「遺言執行者」といい、遺言者は遺言で、 1人または数人の遺言執行者を指定し、 または指定を第三者に委託することができます。遺言執行者の指定や指定の委託は必ず遺言によらなければならず、他の生前行為によってなすことはできません。 遺言者の死亡により、遺言執行者を指定する遺言の効力が生じても、 指定された者は、遺言執行者に就任承諾するかどうかの選択することができます。相続人とその他利害関係人は、 相当の期間を定めて、遺言執行者に指定された者に対して、遺言執行者への就任を承認するかどうか返事するよう催告することができ、 その相当の期間内に指定された者がはっきりと返事をしなかったときは、遺言執行者への就任を承諾したものとみなされます。

遺贈の(遺留分)減殺方法の指定

遺言者は、遺言によって、遺贈(遺留分)の減殺方法を指定することができます。減殺方法の指定は遺言によって行わなければならず、 それ以外の生前行為で指定することは認められません。 指定の方法としては、減殺すべき金額を遺贈ごとに指定したり、各遺贈に対する減殺の順番を指定したりすることができます。

遺言でも生前行為でもすることができる事項

認知

認知とは、知ってのとおり、婚姻関係にない男女間に生まれた子(非嫡出子)を、父親が自分の子であると認めることをいいます。原則として、母子関係は分娩の事実によって当然に生じますが、父子関係は認知によって生じることになります。認知は生前行為によっても、遺言によってすることも可能です。生前行為の場合は戸籍法の届出を父親が行いますが、遺言による認知の場合には、遺言執行者が認知の届出を行います。

推定相続人の廃除とその取消

廃除とは、遺留分を有する推定相続人(兄弟姉妹以外の法定相続人)が遺言者に対する虐待や侮辱等を行った場合、遺言者がその者に相続させないように、その者の相続権を無いものとする制度のことをいいます。廃除の取消しとは、遺言者が行った廃除をなかったものにする制度です。廃除や廃除の取消しは、生前行為によっても、遺言によってもすることが可能です。遺言による廃除や廃除の取消しを行った場合には、遺言執行者が家庭裁判所に請求をすることになります。

財産の処分

遺言による財産処分は、遺言者が死亡後に権利主体となることはできないため、財産処分一般がすべて可能というわけではありません。遺言による財産処分としては「寄付」等が考えられます。

祖先の祭祀主宰者の指定

祭祀主宰者とは、祖先の祭祀を主宰すべき者をいい、祭祀財産(系譜、祭具、墳墓)は、その性質上、相続財産として相続人による共有ないし遺産分割の対象となりません。祭祀主宰者となる者は祭祀財産を単独承継することになります。祭祀主宰者の決定は、 以下の順に決めることになります。

  1. 被相続人が指定した者
  2. 指定がないときは慣習に従う
  3. 慣習が不明なときは家庭裁判所が定める

遺言により祭祀主宰者を指定することができるとされていますが、その方式について規定は特にありませんので、生前行為によっても遺言によっても祭祀主宰者の指定をすることは可能で、生前行為による場合には、口頭でも、書面でもかまわないとされています。

特別受益者の相続分に関する指定

特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から婚姻、養子縁組のため、生計の資本として生前贈与や遺贈を受けているときの利益をいいます。相続人の具体的相続分を算定するには、相続が開始したときに存在する相続財産の価額にその相続人の相続分を乗ずればよいはずですが、特定の相続人が、被相続人から利益を受けているときは、その利益分を遺産分割の際に考慮して修正することが公平といえるという趣旨で、特別受益がある場合には、その受益分を相続分算定にあたって考慮して計算することになります。
この受益分について考慮することを「特別受益の持戻し」といいます。遺言による特別受益の相続分に関する指定としては、この「特別受益の持戻し」を免除したりすることを指します。

生命保険金受取人の指定

保険契約では、保険金を受け取る人が指定されているのが通常でしたが、保険法の改正で、保険金受取人の変更を遺言によってもすることができるようになりました。遺言書で保険金の受取人を変えたいときは、受取人を変更する保険契約の保険会社・証券番号・従来の保険金受取人などを明記して、新しい受取人を指定しなければなりません。保険契約者の相続人がその旨を保険会社に通知しなければ、保険金受取人を変更したことを保険者に主張することはできないとされており、しかも、それ以前に保険会社が、従前の保険金受取人に支払ってしまった場合には、保険会社に責任はないことになります。
法改正で可能になったとはいえ、保険会社によっては遺言で生命保険受取人の変更に対応しない場合もあると聞きます。生命保険の受取人の変更は本人の意思表示だけでできることがほとんどですから、従前どおり生前に保険契約を変更するのが望ましいといえます。

信託の設定

信託とは、一定の目的に従って財産の管理又は処分をさせるために、他人に財産権の移転その他の処分をさせることをいいます。遺言によってこの信託の設定をすることもできます。



遺言・相続 Contents