遺言の方式

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遺言の方式 - 自筆証書、公正証書、秘密証書 -



遺言の方式には大きく分けて、「普通方式」「特別方式」があります。

方式

特別方式は、危急時遺言(一般危急時遺言・船舶遭難者遺言)と隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言・在船者遺言)がありますが、
これらは緊急時等特殊な状況下での遺言であり、これらの解説は当サイトの趣旨ではありませんので省略します。
普通方式には自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言があります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、文字通り遺言者が自筆で遺言書を作成するものです。「自筆」が要件ですので、ワープロ・タイプライター・点字機を使用したものは無効となります。遺言者が、全文・日付・氏名を自書して、これに押印することによって成立します。日付・氏名・押印のいずれか一つでも欠けると無効になりますので注意が必要です。
立会人も不要なので一番手軽に作成できますが、偽造・変造・滅失・未発見のおそれがあるので保管や相続開始後にどのように相続人にその存在を知らせるかなど、不安要素が多い遺言だといえます。

自筆 文字通り、遺言者の「自筆」が要件となります。ワープロ・タイプライター・口授して他人が筆記したものは無効です。ご自身で筆記できなければ公正証書遺言を選択することになります。文字は、日本語のみならず、外国語や速記文字でも有効です。
日付 日付は遺言書作成の時点で遺言能力があったかどうか、遺言の前後を確認するために必要となります。(遺言が2つある場合、前後で矛盾抵触する内容の場合、後の遺言が優先します)日付がない場合はもちろん、日付が明確でない場合、年月だけで日の記載を欠くものや「平成○年□月吉日」と書かれているような場合もすべて無効となりますので、明確に記載しておく必要があります。
ちなみに、「○○歳の誕生日に・・・」と書かれているものは有効ですが、きちんと年月日を記載しておくほうが望ましいです。
氏名 氏名も自書することが必要です。氏名は誰が遺言者であるかその同一性を明確にするために要求されるものです。氏名は、戸籍の記載と一致する必要はなく、通称・雅号・ペンネーム等を用いてもかまいません。本人の同一性が認識される程度の表示であれば足りるとされています。とはいっても、戸籍上の氏名を正確に記載しておくのが望ましいことは言うまでもありません。また、遺言は、単独でする必要があります。たとえば夫婦共同で1通の遺言書を作成しても無効となります。
押印 印は、実印であることを要しません。認印でも、指印でも有効です。自筆証書遺言は、数葉にわたる場合でも、1通の遺言書として作成されているときは、その日付、署名、押印が1葉にされていれば良いことになっています。しかし、実際に自筆証書遺言を作成する場合は、契印をしておくほうが無難です。
加除、その他変更の方法 自筆証書遺言の加除、変更は厳格な方式を要求されます。遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更箇所に印を押さなければなりません。(遺言書の片隅に捨印をして「何字削除。何字訂正。何字加入」等と記入する方法は第三者の加筆・訂正が容易になってしまうので認められません。)この方式に従わないときは、変更の効力が生じませんので注意が必要です。変更訂正等が数箇所に及ぶ場合は、書き直すほうが賢明かもしれません。書き直す場合は、新旧2通の遺言書を遺さないよう、書き損じた方の遺言書は確実に処分しましょう。


公正証書遺言

証拠力が高く、一番確実で、おすすめな方式です。
証人2名以上の立会いのもと、公証人の面前で遺言者が公証人に伝えた遺言内容を、公証人が公正証書として作成する遺言です。公証人が作成しますので、自書できない場合でも作成可能です。旧民法では、「口授」(口伝えで意思を伝達)「口述」(口で述べる)「読み聞かせ」が必須条件であったため、聴覚・言語機能障害者は公正証書遺言をすることができませんでしたが、民法の改正(平成11年)により、言語機能障害者については「口述」にかえて「通訳人の通訳による申述又は自書」によってできることになり、聴覚機能障害者については「読み聞かせ」を「通訳人の通訳」にかえることができることとなり、公証人が筆記した内容を確認する方法として、一般的に「読み聞かせ」だけでなく「閲覧」も可能となりました。(通訳人とは、手話通訳ができる人を指します。この資格について法律上の制限はありません)
公正証書は一般的には公証役場で作成しなければなりませんが、遺言者が病気などで公証役場に出向けない場合は、公証人が遺言者のところへ出張して、遺言者の自宅や入院先で遺言書を作成することができます。作成された遺言書は公証役場で保管されるため、紛失、偽造、変造の心配はまずありません。自筆証書遺言、秘密証書遺言では必要な検認手続も不要です。

証人立会 公正証書遺言を作成する場合は、証人が2人必要になります。証人は、遺言者の同一性・精神状態が確かなこと、遺言者の意思から出たもので真実に成立したことを証明するもので、さらに、公証人の職権濫用を防止する任務を有しています。ですので、公証人が遺言者の意思を確認した上で作成される公正証書遺言ですが、証人立会いがなく作成された遺言は無効ということになります。
証人の欠格事由 証人(立会人)には、以下のような欠格事由(証人になれない事由)があります。
未成年者 未成年者は、証人になることができません。必要な能力を有しないと考えられるからです。たとえ、法定代理人(親権者等)の同意を得ても証人になることはできません。
旧民法では、禁治産者、準禁治産者が欠格事由とされていましたが、平成11年の民法改正でこれらは除かれました。現行民法では、成年被後見人、被保佐人は証人になることができますが、成年被後見人については、事理弁識能力を回復していることが必要で、被保佐人については、保佐人の同意が必要となります。
推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 これらの者は、遺言について利害関係を有し、遺言に影響を与えるおそれがあるので欠格事由とされています。推定相続人及び受遺者の配偶者は、遺言について直接の法律上の利害関係はありませんが、間接的に利害関係を有しており、遺言者に影響を与えるおそれがあるので欠格事由とされています。
公証人の配偶者・4親等内の親族・書記及び使用人 これらの者は、公証人の指揮・勢力の範囲内にあって、公証人の職権濫用を防止することを期待できない者なので欠格事由とされています。
欠格者が証人となった場合の遺言の効力 欠格者が証人となった遺言は原則として無効となります。遺言の証人は家族などは欠格事由に該当してしまいます。遺言の性質上、見ず知らずの他人にそう気軽に証人を頼むのも難しく、知り合いには、遺言内容を知られたくないということもあります。我々、行政書士などの士業者には守秘義務が課せられていますので、遺言内容を他人に漏らすようなことはありません。公正証書遺言や秘密証書遺言を作成したいが、証人がいないという方は、士業者に証人となることを依頼するという方法もあります。


秘密証書遺言

公証人1名および証人2名以上の前で、自ら作成した遺言書に(自筆でなくてもよいですが、自筆が望ましい)封印し自分の遺言書であることを申述する遺言方式。遺言の存在は明確になりますが、遺言内容について公証人が関与しないので、内容については自筆証書遺言と変わるところがなく、記載内容によっては無効になることもあります。また、検認手続も必要となります。秘密証書遺言は、公証役場を利用する方式で、手間は公正証書遺言と大差ないことを考えれば、確実な公正証書遺言をやはりお勧めしますが、遺言内容を絶対秘密にしたいという方で、作成年月日等を明確にしておきたいという方は秘密証書遺言を選択することになります。

[秘密証書遺言の要件]

  • 遺言者が遺言書を作成し、その証書に署名・押印すること
    自筆である必要はありません。ワープロ・タイプライター・点字機でも問題ありませんが、「署名」は必要です。自筆証書遺言では必要である「日付」も不要です。公証人が日付を記載し、確定日付として遺言者の遺言能力の有無及び遺言の前後の判定の基準になるからです。
  • 遺言者が遺言証書を封じ、証書に用いた印章でこれに封印すること
    証書に押印した印章と同じでなければなりません。
  • 遺言者が公証人1人、証人2人以上の前に封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びにその筆者(書いた人)の氏名・住所を申述すること
    言語機能障害者が秘密証書遺言をする場合は、遺言者は、公証人、証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名・住所を通訳人の通訳によって申述し、又は封紙に自書して上記申述に代えなければなりません。通訳人の通訳により申述したときは、公証人はその旨を封紙に記載します。
  • 公証人ががその証書を提出した日付・遺言者の申述を封紙に記載さた後、遺言者及び証人とともにこれに署名・押印すること

※ 秘密証書遺言の証人の欠格事由については、公正証書遺言の場合と同様です。


秘密証書遺言の自筆証書遺言への転換

秘密証書による遺言は、上記の要件に欠けているものがあったとしても、それが自筆証書遺言の方式を備えているときは、自筆証書遺言として効力を有する場合があります。秘密証書遺言は、自筆でなくワープロ、代筆も可能ですが、これらの方法を用いた場合には自筆証書遺言への転換の可能性はありません。

普通方式遺言3方式の比較

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成の手続き 遺言者が自身で文字が書ける必要あり
用紙、筆記具に制限なし
ワープロは不可
遺言者の口授・自書・通訳により
公証人が作成
遺言書本文を作成・封印の上、公証人に公証してもらう
自書不要
費  用 ほとんど不要 公証人手数料 公証人手数料
証  人 不要 2人以上 2人以上
秘密保持 適している
遺言書の存在自体秘密にできる
公証人、証人には遺言の存在・内容まで知られてしまう 遺言内容は秘密にできるが遺言の存在は公証人・証人に知られてしまう
偽造・変造・滅失
隠匿・未発見
すべてにおいてあり
同文の遺言書を数通作成し信頼できる者に渡しておき、滅失・隠匿・未発見を防止するなど工夫が必要
ほとんどなし 偽造・変造はない
滅失・隠匿・未発見のおそれはある
効力が問題と
なる可能性
大きい
方式違反、文意不明、
自筆かどうかなど
ほとんどなし 証書の内容については自筆証書遺言と変わるところはない
検  認 必 要 不 要 必 要




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