遺言の撤回

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遺言の無効・取消・撤回



遺言は法律行為ですので、意思表示に関する一般の無効取消が問題となります。また、遺言には「撤回」が自由に認められているので、遺言者の生存中は遺言を失効させるのは容易にできます。

遺言の無効原因

法定の方式によらない遺言
遺言は要式行為なので、法律の規定に則って作成されている必要があります。法に定められた規定に反するものは、遺言書としての効力が認められません。


遺言能力を有しない者の遺言
まず、遺言は15歳に達した者でなければすることができません。通常の法律行為は、未成年者は単独ではできず、法定代理人(親権者または未成年後見人)の同意等が必要ですが、遺言に関しては、15歳に達していれば単独でもすることができるということになります。遺言をするには、完全な行為能力は必要ありません。制限行為能力者として、成年被後見人、被保佐人、被補助人などがありますが、遺言時に意思能力があれば遺言をすることができます。成年被後見人でも、精神上の障害が一時回復して意思能力を持っていれば、遺言することが可能ということです。しかし、成年被後見人が精神上の障害が回復しているかどうかは、一般人には判定が難しいので、このような場合は、医師2人以上の立会いが必要になります。


被後見人の遺言の制限
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人またはその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効になります。「精神上の障害により判断能力を欠く状況にある者」で家庭裁判所の審判を受けた者を成年被後見人といいますが、後見人とはこの者の法律行為を代理する立場にあります。このような関係から、被後見人は後見人にコントロールされ、後見人にとって都合のいい遺言をさせられることがありえますので、このような場合は無効とされています。しかし、後見人が被後見人の直系血族、配偶者、兄弟姉妹である場合は適用が無く、無効とはなりません。


実行不可能な遺言
遺言が実行できないような内容のものは無効になります。例えば、存在しない預金を遺贈するとか、火災で無くなった建物を遺贈するなどがこれにあたります。


遺言内容が特定できない場合
例えば、遺言者が複数筆の土地を所有していた場合に、遺言に「Aに土地一筆を遺贈する」とだけ書いているような場合です。
確かに遺言者は土地を数筆所有しているとしても、その土地を特定できないのでどの土地なのか分かりません。このような場合は無効です。遺言書で不動産を特定するときは、法務局で登記情報を取得して正確な所在、地番等を記載する必要があります。
また、建物は、未登記の場合もあります。このようなときは、固定資産評価証明書などを取得して、その記載を利用するなどして特定する必要があります。


法定事項以外の遺言
法定遺言事項としては、以下のものがあります。

  1. 遺言認知
  2. 推定相続人の廃除又は排除の取消し
  3. 相続分の指定
  4. 遺産分割の方法の指定
  5. 特別受益の持戻し免除
  6. 遺産分割の禁止(5年が限度)
  7. 遺留分減殺の方法の指定
  8. 遺贈
  9. 遺言執行者の指定

上記以外の事項を遺言書に記載しても法的な意味はあまりありませんが、書いてはいけないということではありません。ただし、法定遺言事項の内容が不明瞭になるようなことは書かないようにしましょう。


公序良俗に反する事項を内容とする遺言
公序良俗に反する遺言は当然に無効です。ただし、全体が無効となるのではなく、公序良俗に反する部分のみ無効と解されています。


要素の錯誤のある遺言
要素の錯誤とは具体的には錯誤がなければ法律行為をしなかったであろうと考えられる場合で、かつ、取引通念に照らして錯誤がなければ意思表示をしなかったであろう場合をいいます。遺言者が要素の錯誤に陥ってした遺言は無効になります。

遺言の取消原因

詐欺・強迫による遺言がなされた場合、遺言者はその遺言を取消すことができます。
遺言者の死後は遺言者の相続人は包括的に遺言者の権利義務を承継していますので、相続人から取消が可能です。

遺言の撤回

遺言は自由に撤回できます。
遺言者はいつでも、なんら理由がなくても自由に遺言の全部又は一部を撤回することができます。遺言の撤回権は放棄することができないので、たとえ「この遺言が最終遺言であり、撤回することはありません」と書かれた遺言であっても、後の遺言で撤回していれば撤回は有効となります。


撤回の方式
遺言を撤回するには、「遺言の方式」に従ってしなければなりません。撤回する場合、先の遺言と同方式でする必要はなく、公正証書遺言の後に自筆証書遺言で撤回することも可能です。


法定撤回
民法は、遺言がなされた後に一定の事実があったときは、遺言者の真意を問わず遺言の撤回があったとみなしています。(法定撤回)法定撤回には4つの場合があります。
①前の遺言と後の遺言との抵触
前後の遺言で内容がくい違う部分について撤回したとみなされます。例えば、「甲土地をAに遺贈する」と前の遺言で書いているが、後の遺言で「甲土地はBに遺贈する」とあれば、Aに対する遺贈は撤回したものとみなされます。前の遺言と後の遺言でくい違わない部分については撤回されたものとはみなされないので、引き続き有効な遺言書として効力を有します。


②生前処分その他の法律行為との抵触
遺言者が遺言をした後に、その遺言内容と抵触する生前処分その他の法律行為をした場合にも、遺言の抵触する部分を撤回したものとみなされます。例えば「甲土地をAに遺贈する」と遺言で書いているが、生前に甲土地をBに売却したというような場合がこれにあたります。遺言者が、故意に処分した場合でも、遺言内容を失念して処分してしまった場合でも撤回したとみなされます。


③遺言書の破棄
遺言者が、故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したとみなされます。故意に破棄したのでなく、過失による場合は遺言の撤回とはみなされません。


④遺贈の目的物の破棄
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。


撤回の撤回
遺言を撤回する第二の遺言または法律行為が、さらに撤回されまたは効力が生じなくなるに至った場合に、先の遺言が復活するかどうかが問題になります。考え方としては、復活主義非復活主義がありますが、日本の民法では、復活しない非復活主義を採っています。例として、遺言者が①「甲土地をAに遺贈する」旨の遺言をした後、②「甲土地をBに遺贈する」旨の遺言をしたが、後の②「甲土地をBに遺贈する」旨の遺言を撤回しても、先の①「甲と地をAに遺贈する」という遺言は復活しないということになります。ただし、第1の遺言をした後、第2の遺言で第1の遺言を撤回したが、第3の遺言で「第2の遺言を撤回し、第1の遺言を復活させる」旨の遺言をした場合は第1の遺言は復活するという判例(最判平9年11月13日)があります。


撤回の取消
遺言の撤回の取消には、「行為能力の制限を理由とする遺言の撤回の取消」と「詐欺・強迫を理由とする遺言の撤回の取消」がありますが、取扱が異なります。行為能力の制限を理由とする場合は、遺言を復活させたいのかが不明であるので、先の遺言は復活しません。改めて遺言を作成しなおす必要があります。
一方、詐欺・強迫によって遺言を撤回した場合は、遺言者の意思としては、先の遺言を復活させると考えるのが妥当ですので、先の遺言が有効な遺言として復活します。



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