遺言の利点

Top / 遺言の利点


遺言書を作成する利点



遺言は、死後の財産分配に、遺言者自身の意思を反映させることができるものです。
民法の定める法定相続分は、被相続人との続柄によって一定の割合で相続させるものなので、それぞれの事情に都合よくいく筈はありません。法定相続分で共同相続したのでは、財産は共有になってしまい、共同相続人全員の同意が必要な「遺産分割協議」をすることになります。この遺産分割協議は、円満に協議が進めばよいのですが、各相続人の思惑がぶつかり、相続人間で争う事態に陥ることが多々あります。その他にも、遺産分割協議で争いが生じるか否かにかかわらず、遺言書を作成すべき場合があります。ここで記述するようなケースに該当する方は、遺言書作成をお勧めします。

共同相続人ごとに相続する財産を指定したい方

複数の子の間の法定相続分は「均等」ですが、放蕩の限りを尽くして、親に迷惑をかけた子と、まじめで親孝行だった子とがいるような場合、真面目な親孝行な子に多くの財産を相続させたいと考える場合もあれば、どうしようもない子が心配で財産を残してやりたいと考えたり、人それぞれの思惑があると思います。しかし、遺言書を残していない場合は相続人全員で遺産分割協議を経て、相続財産を分割することになります。被相続人としては、親孝行な子に多く相続して欲しいと思っていても、遺産分割協議でどういう分割になるかは自分は亡くなっているので結果を知ることも、分割時に意思を表明することもできません。
「子の中の一人に確実に多く財産を分け与えたい」というような場合は、遺言書でその意思を残しておく以外、自分の意思に強制力を持ったせる手段はありません。「相続分の指定」という方法は、「長男4分の3、次男4分の1」というように相続財産の割合を遺言書に書く方法によります。この相続分の指定では、子の中の一人に多くの財産を分け与えるという目的は達成できますが、相続分とは相続財産に対する割合なので、割合を10割にしない限り、不動産などは共有状態が生じてしまいます。このような場合は、「遺産分割の方法の指定」の方法で遺言をすることにより、具体的に相続する財産を決めておくのが良いと思います。例を挙げれば、「甲不動産と乙不動産と丙不動産は長男、預金と現金は次男」というような定めかたが、「遺産分割の方法の指定」です。このようにすれば、共有状態を生じさせることもなく、スムーズに遺産分割をすることができます。長男、次男で相続財産を均等に分けるという場合でも、遺産分割協議をしなければ、現金など可分のものは別ですが、不動産、動産など不可分(分けられない)なものは遺言書がない場合は共同相続人の共有となってしまいます。家屋や土地などの不可分財産(物理的に分けられない財産)は、たとえA土地が1000万円、B土地が1000万円の価値だとしても、A土地、B土地それぞれが長男1/2、次男1/2の共有となってしまい、A土地、長男Xの単独所有、土地、次男Yの単独所有という財産承継にしたければ、必ず遺産分割協議を経なければなりません。
このような場合、遺言書で指定しておけば、遺産分割協議を経ることなく、それぞれの相続財産を単独所有に名義変更することができ、手続も遺産分割協議を経る場合に比して容易に進めることができます。


被相続人甲がA土地とB土地を所有している場合で、子XとYがいる場合を例にとって考えてみます。
甲が亡くなって相続が開始した場合、法定相続分はX2分の1、Y2分の1です。
[関係図]
関係図

遺言なし

遺言あり



遺言がない場合は、遺産分割協議をするか、法定相続分で相続することになります。法定相続分での相続では、上記の例で言えば、各不動産が共有になってしまい、単独所有にしたければ、共有物分割協議をすることになります。遺産分割協議は、全相続人で協議して遺産を分割します。相続人となる者のうち1人でも同意しなければ手続きを進めることができません。

遺言書があれば、被相続人から、X,Yへ、A土地、B土地それぞれを単独所有で相続することができます。遺産分割協議を経なくてよいだけでなく、登記申請に添付する相続関係を証する情報(戸籍謄本等)も、被相続人と遺言によって財産を相続する相続人の関係を示すもので足ります。遺産分割協議をした場合の相続関係を証する情報は、被相続人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍、原戸籍、除籍等と、全ての相続人の現在戸籍が必要になりますので、遺言書が「ある」か「ない」かで、戸籍を収集する手間が格段に違うということがいえます。

相続人の人数が多い方、遺産の数量・種類が多い方

遺言書がない場合、共同相続人は遺産分割協議をすることになるのが一般的ですが、遺産分割協議は原則、共同相続人全員の同意がなければ成立しません。相続人の人数が多いからといって争いが起こり、少ないからといって争いが起きないわけではありませんが、協議に参加する相続人の人数が多ければ多いほど、さまざまな思惑がぶつかる可能性が高く、調整に時間がかかることは当然のことといえます。
また、揉めないにしても、単純に人数が多ければ、遺産分割協議の日程の調整をするのに手間取るとか、遠方に居住している相続人が何人もいて協議を終わらせるのに時間もお金もかかってしまうということもあります。財産の種類・数量が多い場合、相続人が被相続人の財産の状況についてきちんと把握していないというような場合、財産調査に時間がかかってなかなか相続手続が完了しないということもありえます。このような場合も、遺言書を残しておくことで、相続人の相続財産調査の負担を軽減することができます。遺言書を作成するならば、遺言者は相続させる相続人とその相続人に譲る財産を決めておけば、相続財産を承継しない相続人は遺産分割に参加しなくても相続手続を完了することができます。

子がいない方

子がいない場合には、配偶者被相続人の父母};、または配偶者被相続人の兄弟姉妹、といった相続関係になることがあります。

[関係図]
子がいない

上記関係図で、Aが亡くなった場合、BとAの両親甲、乙が遺産分割協議をすることになります。Aが亡くなった時に、甲、乙が既に死亡している場合は、BとAの兄弟姉妹X、Yが遺産分割協議をすることになります。当事務所に相続のご相談にいらっしゃる方の中に、夫婦の間に子がない場合、配偶者が全て相続すると誤解されている方がけっこういらっしゃいます。被相続人の父母、被相続人の兄弟姉妹と、残された配偶者が大いにもめるということは避けたいところです。事前に遺言書を作成しておけば、残された配偶者が手続に費やす労力はずいぶんと軽減されるので、遺言書を書いておくメリットがあるといえます。

内縁(入籍していない事実上の夫婦)

内縁の夫婦間には、一方が亡くなっても当然には相続権がないので、遺言により遺贈するしか財産を分け与えることはできません。被相続人に相続人がいない場合は、内縁の配偶者は特別縁故者として財産を承継することができることもありますが、財産承継するまでに長い時間を要することになります。内縁の配偶者に財産を相続させるのに一番手っ取り早いのは、籍を入れてしまうことですが、長らく別居してるが籍だけ入っている配偶者がいるような場合は重婚になってしまうので入籍することはできません。しかも、相続人は戸籍上の配偶者になります。このような場合で内縁の配偶者に財産を承継させたい場合は、遺言書によることになります。

婚姻を複数回して、それぞれに子がいる方

先の配偶者との間の子後の配偶者との間の子はどちらも嫡出子として相続人となります。たとえ先の配偶者の子と長年会っていなかったとしても、相続人となります。遺言者が亡くなるまで、先の配偶者の子と後の配偶者との子は、お互い存在すら知らないということもあり、また、お互いの存在を知っている、知らないに関わらず、この子同士が円満に遺産分割協議できるかどうかは協議をしてみないと分かりません。遺言書で遺産の分割方法を明確にしておいたほうがいいでしょう。

自身の死後、財産を寄付したい方

慈善団体、宗教団体、公益法人等に自分の死後、遺産を寄付したいというような場合、遺言書ですることができます。私が伝聞で聞いた話ですが、遺言者が安易に「全財産を○○の団体に遺贈する」と遺言書を残して亡くなり、住んでいた自宅までが遺贈されることになり、そこに住んでいた相続人は遺留分減殺請求権を行使して、家を何とか残したという話を聞いたことがあります。おそらく、遺言した方は、自宅まで遺贈する意思ではなく、預金等を寄付する意思だったのではないだろうかと思いますが、そういう遺言をしてしてしまわないよう注意しましょう。また、それなりの数量の財産が必要になりますが、遺言で一般財団法人を設立することもできます。

相続人がいない方、相続人以外に財産を譲りたい方

相続人がいない場合、原則として遺産は国庫に帰属します。(特別縁故者がいる場合はその者へ、相続財産が共有財産の場合は他の共有者へ帰属します。)また、相続人がいる、いないに関わらず、自身の死後、相続人でない恩人など相続権を有しない人(又は法人等)に遺産を譲りたいという場合は、遺言書で遺贈する方法によることなります。この「遺贈」は、遺言でしかできません。

相続人の中に音信不通、行方不明者がいる方

音信不通、行方不明者等、連絡が取れない相続人がいる場合でも、遺産分割協議は、相続人全員の同意が必要ですので、たとえ10年、20年、行方が分からない者といえども、その者を除いて遺産分割をすることはできません。このような場合、行方が分からない者を捜索しなければなりませんが、手を尽くしても消息が分からない場合は、「不在者財産管理人」を選任するか「失踪宣告」の方法を取らなければなりません。これらの手続きは、かなりの時間を要するものとなっています。遺言書を作成して、不在者、失踪者以外の相続人に「遺産分割の指定」をしておけば、連絡が取れない相続人を除外して手続を進めることができます。

負債が多い方

財産と聞けば、不動産、預金、有価証券等のプラス財産をイメージしがちですが、負債も相続される財産です。
負債は、自分の死後、どのように処理するか遺言書で指定し、相続人が困らないようにしておく必要があります。負債を負っているということを相続人に内緒にしている場合で、生前には言いたくないという方もいるかもしれません。しかし、自分の死後、突然の債権者出現に相続人が驚くということは避けるべきで、生前にきちんと知らせておくか、遺言に記して、負債を明確にしておき、被相続人の死後、相続財産を処分して弁済する方法とか、場合によっては相続放棄するなどの対処ができるようにしておくのがよいと思います。

事業を行っている方

個人事業主として事業を持っている方は、事業用に供している不動産をはじめとする財産も個人名義ですので、相続が開始すると、事業用財産が分散し、事業継続に支障が出る場合があります。遺言書を作成し、事業を継がせる子に集中して相続させるなど、分散を防ぐようにしておく必要があります。
また、会社を経営している方は、保有している自社の株などをどのように相続させるかは事業承継を考える上で重要な事柄です。事業承継となれば、遺言書だけで対処できる問題ではありませんが、事業を承継する相続人と、事業に関わらない相続人の間で紛争が生じないよう遺言書を有効に用いて対策を講じておくべきでしょう。

死後に子を認知したい方

婚姻外で子をもうけた場合、いろいろな事情で生前に認知できないということもあります。遺言書で非嫡出子(婚外子)を認知することができます。

相続人の相続手続の負担を軽減したい方

遺産分割協議をしなくてよいということ以外にも、遺言書があれば相続関係を証する戸籍等の収集が少なくて済みます。遺言書がない場合の相続関係を証する戸籍等は、亡くなった方の出生から、死亡までの戸籍、除籍、原戸籍謄本すべてと、共同相続人全員の戸籍謄本などが必要ですが、遺言書がある場合は、亡くなった方と財産を承継する人の関係が分かるものがあれば足ります。遺言のある・なしで、集める戸籍類の量が大きく異なってきます。数次相続(2世代以上相続手続きがされていない)場合や、共同相続人が多数の場合、集める戸籍類は膨大になり、戸籍等の取得手数料だけでも何万円とかかってしまうこともあります。
遺言書作成には費用がかかりますが、相続手続の費用は抑えることができます。当事務所でも、遺言書を作成されているお客様の相続手続は通常より廉価になります。



遺言・相続 Contents