相続財産の調査

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相続財産の調査



遺産分割協議をする前に、分割すべき相続財産すべてを把握しなければなりません。遺産分割協議書に「本協議書に記載のない相続財産及び後日判明した相続財産については、相続人○○○○がこれを取得する。」という文言を入れておけば、後に判明した財産につき再度協議をする必要はありませんが、後に判明した財産が高額なものであった場合などは、他の相続人との争いになることもあります。些細な財産であれば、上記の文言で対応できますが、高額な不動産などはしっかりと相続開始後すみやかに調査しておくことが必要です。

相続が開始したら、被相続人名義の不動産預貯金有価証券自動車、などを調査します。また、プラス財産だけではなく、負債についても調査が必要となります。

不動産

不動産については役所で名寄帳の写し等を取得してすべての不動産(土地・建物)の所在を明らかにします。名寄には土地の所在、地番、地積、建物の所在、家屋番号、床面積、構造などが記載されていますが、法務局で登記事項証明書を取得して登記されている事項を確認しておきましょう。後に、遺産分割協議書に不動産の表示を記載する場合には、この登記事項証明書を元に記載します。名寄帳の記載と全く同じということもありますが、必ずしも一致するものではありませんので、登記事項証明書は取得しておきます。登記申請手続きの際、遺産分割協議書に記載された不動産の表示と登記情報の記載が異なると登記手続は法務局の登記事項を基に形式的に審査しますので手続ができなくなる場合があります。また、相続税の申告の添付書類として必要になる評価証明書も取得しておきましょう。

名寄帳とは、地方税法387条に基づき市区町村がその市区町村内の土地および家屋について、固定資産課税台帳に基づいて作成するものです。
この名寄帳には、納税義務者の所有する固定資産(土地・家屋)の一覧が記載されているので、被相続人の所有していた不動産の所在を調べることができます。建物は未登記の場合もありますので、名寄帳による相続財産の調査は必須といえます。

【相続財産中の賃貸物件(アパート・駐車場など)】
被相続人が賃貸物件を所有している場合、相続により賃貸人の地位は相続人に承継されます。相続が開始して、遺産分割協議を経て賃貸物件を相続した相続人が、賃貸人となり、その後の賃料を受け取ることになります。しかし、賃借人は相続後、誰が賃貸人になったのか分かりませんので、遺産分割協議が終わったら「賃貸人変更通知」をする必要があります。このとき合わせて被相続人名義の賃貸借契約書を新賃貸人名義のものに書き換えておきましょう。書換えをしなくても法的には当然に新賃貸人と賃借人との間で従来の契約が続いていることになりますが、当事者間で誤解など生じさせないためにも新しく契約書を作成しておけば安心です。

逆に、賃借人に相続が開始した場合、賃借権は財産権としてその相続人に承継されます。相続に際して、賃貸人の承諾等は不要で、賃貸借契約の名義人が死亡してもその相続人は出て行く必要はありません。この場合も賃貸人は賃借人が変ったことを知ることができるとは限りませんので、「賃借人変更通知」をする必要があります。契約書の書換えについては、上記賃貸人の相続の場合と同じです。


預貯金・有価証券

預貯金については、通帳や預貯金証書によって、預貯金口座の取引履歴を確認します。相続開始前3年ないし6年間の履歴を確認しましょう。通帳などが見つからない場合は、金融機関に対して取引履歴証明書の発行を依頼することができます。相続税の申告の際に添付書類として必要になる相続発生日現在の預金残高証明書の発行も請求します。

有価証券(株式・国債等)については、証券等で保有銘柄や株式数等を確認します。端株(1株に満たない株式)が生じている場合は、配当金支払報告書で確認できます。被相続人が株式の売買を頻繁に行っていた場合は、売買報告書や、配当金が振り込まれる預金通帳などをよく見て、見落としが無いように注意しましょう。
インターネットでの銀行取引や株取引は、被相続人しか知らないパスワードなどでセキュリティーがかけられており、相続人がログインできないこともあります。そのような時は、インターネットバンクあるいは証券会社からの郵便物などで会社を調べ、問い合わせをしましょう。

負債

負債については、法定相続分の割合で相続人が負うことになっています。被相続人が事業を営んでいた場合など、金融機関からの借り入れなど債務が残っている場合があります。負債は遺産分割の対象ではありませんので、遺産分割協議で財産を受け継がなかった相続人も残債務を負うことになるので注意が必要です。金銭消費貸借契約書等で契約内容(借入金額、契約日、返済期限等)を確認しておきましょう。証書がなにもないような場合は、取引していた金融機関が分かる場合は、金融機関に借入金残高証明書を発行してもらうことができます。

取引業者に対する債務が残っている場合も考えられます。被相続人と一緒に事業を行っていた相続人がいれば内容を把握できるかもしれませんが、全く事業に関わっていなかった者が相続した場合は、なにがどうなっているか全く分からないということもありえます。そのような場合、取引先からの不合理な主張を追認したり、時効中断(債務承認)してしまったりしないように注意が必要です。

債務を相続人の1人が引き受ける合意を相続人間ですることはできます。ただし、この合意は相続人間の合意であって、債権者との間でも通用するものとしたいならば、合意について債権者の承諾が必要になります。


その他の相続財産

ゴルフ会員権(預託金会員制)

ゴルフ会員権が相続財産の中にある場合、「相続人が被相続人と同様にゴルフ場施設を利用することができるゴルフクラブ会員たる資格を取得できるか?」と「相続人が会員契約上の地位を承継できるか」という問題があります。「ゴルフクラブ会員たる資格」は理事会などの入会資格審査を経て始めて付与されるもので、一審専属的性格を有するものなので当然には相続できるものではありません。これに対し、「会員契約上の地位」については、会則の定めにより、会則所上相続承継を否定している場合は地位を相続承継しませんが、会則が相続承継を定めている場合や、相続に関する規定はなくとも会員契約上の地位の譲渡を定めているときは、相続承継することができます。また、相続承継や地位譲渡の規定が全く無い場合、譲渡は禁止されていないと解釈され譲渡することができます。相続人のうちの1人が会員契約上の地位の相続をし、ゴルフクラブ会員たる資格を取得したときは、被相続人と同様、会員として施設等を利用することができます。会員契約上の地位の相続をしたが、会員たる資格を取得できないときは預託金の返還請求をすることになるでしょう。この預託金返還請求は、会員死亡を理由としてすることができず、まず、相続した者が退会手続をとって、会員契約上の地位を喪失してから初めて行使することができます。この預託金には、据置期間が定められていますので、この期間が経過していないときは直ちに返還請求することはできないことになります。実際のゴルフクラブの会則では会員が死亡した場合、「預託金の返還手続」「相続人のうちの1人への名義書換手続」「第三者への譲渡手続」のいずれかを選択して行使しうると定めているものが多いようです。

銀行の貸金庫内の相続財産

貸金庫契約とは、金融機関との間で利用者が貸金庫施設を利用し、その中に貴重品類を預け、それに対して一定の使用料を支払う契約をいいます。貸金庫契約では、正鍵は借主が預り、借主があらかじめ届け出た代理人も使用できます。副鍵は金融機関が保管します。貸金庫契約の性質は賃貸借契約であり、賃借権は相続の対象となりますので貸金庫契約に基づく権利義務は相続人が承継することになります。被相続人が死亡した場合、あらかじめ届け出た代理人の権利は消滅し、貸金庫の開閉はすることができなくなります。また、共同相続人のうちの1人は、勝手に開閉することができませんので、全員共同で解約手続をすることになります。しかし、実際には誰かが鍵を持っている場合、開閉が可能となってしまうので、借主死亡の場合は早急に金融機関に通知し、以後の利用をできないようにしておかなければ勝手に金庫内の財産が持ち出されることもありえます。



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